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日本の文様

「立涌(たてわく)」とは縦に湧き立つような二本の線が左右に膨らんだりくぼんだりしながら伸び、水蒸気が涌き立ちのぼっていく様子を表した文様です。 蒸気が立ち昇る様子だけでなく、陽炎が立ち昇る揺らめきの様子、雲がむくむくと立ち昇る様子とも言われることがあります。 上向きの言葉の響きからして、とても縁起が良さそうですね。

赤絵の伊万里などにもよく使用されている図柄ですが、立涌文様が最も多く見受けられるのは織物でしょうか。 正倉院に収められている「正倉院裂」と呼ばれる古裂が有名で、それを模した茶道の仕覆や古帛紗が一番身近かもしれません。 また織物といえば、茶道具だけでなく、着物や帯にも多く使用されているものですので是非探してみてください。

立涌文様は近代広く使われている文様ではありますが、元来は有職文様の一つで、文様の中でも歴史的に見てとても格調高いものなのです。 有職文様とは、平安時代以降、公家階級の装束・調度などに用いられていた伝統的な文様のことを指します。当時、階級によって身につけるものや色、模様までが決まっていた中で、限られた身分の人にのみ身につけることを許された特別なものなのです。

もとはシルクロードを経てペルシャ伝わり、日本人の美意識と融合して独自の様式へと変化してきました。 当時極東の小さな島だった日本にとっては、世界はとてつもなく広かったと思います。その当時に異国の地からもたらされた様々な染織品はさぞかし日本人の目に珍しく写り、もてはやされたことと想像できます。 図柄をそのまま利用するのではなく日本人の感性でアレンジされたという点からは、文様を楽しんでいる当時の貴族たちの姿が思い浮かぶような気がします。

どのようなアレンジがされたのか一例をあげますと、文様のふくらんだ部分に他の様々な模様が入り、例えば菊が配されたものは「菊立涌」、雲なら「雲立涌」、波であれば「波立涌」、さらには桐や葡萄などと発展していきました。

特に雲立涌は、伝統的に関白の袍(束帯の上着)や親王の袴に用いられていた名残から、今日も男性皇族の指貫(衣冠に用いる裾がすぼまった袴のような衣装)に用いられている特別な文様といえます。

立涌(たてわく)の画像

古来より蒸気が立ち昇る様子は吉祥とされ、その吉祥紋に日本のアレンジを加えて楽しんだ昔の貴人たち。 与えられたものをそのまま消費するのではなく、自らの意志を持って選び、感性を働かせて生活に馴染むように変化させてきた昔の人々… もしかすると、たくさんの物に恵まれている今日の私たちよりもクリエイティブだったのかもしれません。

格調高い立涌文様を見つけたら、自分の感性をいかして楽しく生活していた当時の人たちに想いを馳せてみませんか?「皆が使っているから」ではなく「自分がどう感じるか」と言う美意識を作動させて、ぜひ古き良きものを選んでみてください。

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